世界の食トレンドと消費者が食に求める3つの役割に続いては、多様化する消費者ニーズに応えて世界に通用する食体験を提供するための3つのステップ「主体的な選択のための情報提供、コンテクストとしての食体験の提供、持続可能な食に向けた取り組みの実践」を紹介します。
多様化する消費者ニーズに応えるステップの一つ目は、「主体的な選択のための情報提供」です。これは第一部で紹介した消費者が食に求める役割の「主体的な選択」ニーズに応える取り組みです。
主体的な選択のための情報提供を実施している飲食店の事例にはどのようなものがあるでしょうか? 本記事では、東京青山にあるレストラン The Burn の取り組みを紹介します。
The Burnとは
The Burnはニューヨークにあるミシュラン三つ星レストラン Jean-Georges で日本人初のスーシェフを務め、その後 Jean-Georges Tokyo の料理長などを務めた米澤文雄シェフが2018年にオープンした、サステナブルな食材を利用したレストランです(現在は木下咲紀シェフが料理長を務めています)。
店名のBurnは 「焦がす」や「燃やす」という意味で、強い炭火で焼き上げた火の香りがするシンプルで豪快な料理を提供しています。コンセプト、料理、空間ともに筆者が好きな店のひとつで、本記事では実際にいただいた料理を交えながらThe Burnの取り組みを紹介します。
食の多様性と持続可能性に対応
ヴィーガン対応メニューを常に提供
The Burnの特徴は三点あります。
一つ目の特徴は、国産の熟成肉がメインのレストランでありながら、ヴィーガン対応の料理をコースとアラカルトで常に提供している点です。
メニューブックを見るとヴィーガン料理には「VEGAN MENU」の表示が、ヴィーガン対応に変更できる料理には「CAN BE CHANGED VEGAN」の表示があり、お客様がひと目で判断できるように工夫されています。
二つ目の特徴は、ヒレとサーロインは経産牛を提供している点です。
肉をメインにするレストランの多くは出産を経験していない雌牛を使用しますが、最後まで大切に育てられた肉が無駄にならないように、周囲はバリッと火の香りをまとわせて香ばしく、中はジューシーにやわらかく、経産牛であることを感じさせない絶妙な調理で提供されます。
三つ目の特徴は、野菜はできるだけオーガニックのものを使用している点です。
The Burnのシグニチャーとも言える「有機人参のロースト」と「カリフラワーステーキ」は筆者も大好きで、同店のレシピ本を参考に自分でもよくつくる料理ですが、野菜だけでできているとは思えない奥行きのある味わいです。
またメニューブックには載っていない、その日に入荷したおすすめの野菜を使った料理もあり、その調理方法もヴィーガン対応やベジタリアン対応から選ぶことができます。この日は大きな肉厚のしいたけをスモークドバターソースで調理していただきました。
さまざまな食の習慣や嗜好を特別オプション扱いするのではなく常に対応し、またお客様が主体的に判断できるように分かりやすく情報を提供しているThe Burnは、いつ行っても国際色豊かなお客様で賑わっています。
持続可能な食に向けた取り組みも積極的に推進しているグッドプラクティスな事例でした。
ぽっかりマンコでは、ガストロノミーツーリズムやインバウンド対応に取り組んでいる観光・宿泊・飲食事業者に向けて、より良い食体験を届けるための事例集を毎年刊行しています。
最新刊の事例集「Inclusive & Regenerative Gastronomy」は、2024年9月に書籍とPDFで販売予定です。書籍は資源保護のため初版100冊のみとなりますので、お早めにご予約・ご購入ください。なお2023年度の事例集「Expolore the Future of Food」は、引き続きPDF版をご利用いただけます(書籍は完売御礼)。
また本事例集に関する講演や寄稿のご依頼にも対応しています。講演内容の詳細やこれまでの実績は下記よりご覧いただけます。
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