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[事例13]プラントベースの食品ブランドとして世界最大規模の会社へと成長する Wicked Kitchen


 世界の食トレンドと消費者が食に求める3つの役割に続いては、多様化する消費者ニーズに応えて世界に通用する食体験を提供するための3つのステップ「主体的な選択のための情報提供、コンテクストとしての食体験の提供、持続可能な食に向けた取り組みの実践」を紹介します。


 多様化する消費者ニーズに応えるステップの三つ目は、持続可能な食に向けた取り組みの実践」です。これは第一部で紹介した消費者が食に求める役割の「パーパスの発見」ニーズに応える取り組みです。


 持続可能な食に向けた取り組みの実践を実施している会社の事例にはどのようなものがあるでしょうか? 本記事では、イギリスを拠点にする Wicked kitchen の取り組みを紹介します。



 

Wicked Kitchenとは

 

 Wicked Kitchen(以下「WICKED」と記載) は、プラントベース食品の企画販売と、パートナー企業の商品開発を支援する、英国を拠点とする会社です。米国ニューイングランド出身のシェフ、デレクとチャドの兄弟が共同で2018年に設立しました。

 

 同社は持続可能性とおいしさを重視し、ピザやパスタからアイスクリームまで、さまざまな即食タイプのプラントベース食品の企画販売と、パートナー企業の商品開発を支援しています。

 

 2018年の設立から僅か16ヶ月で WICKEDブランドの商品を1億個以上販売した実績を有し、筆者が同年に米国で市場調査をした時から既に高い人気を誇っていました。

 

 2022年に筆者が米国で参加したプラントベースの国際会議「Plant Based World Expo」では、新しくCEOに就任したピート・スペランザがグローバル展開について講演し、同会場では共同創立者兼最高調理責任者のチャドと話をする機会にも恵まれました。

 

 本記事ではそこで紹介された最新情報も交えながら、持続可能な食に向けた取り組みを支援するWICKEDの取り組みを紹介します。


ぽっかりマンコ
WICKED 共同創立者のチャド(左)と筆者(右)|筆者撮影(2022年9月)

 

プラントベース食品ブランドの中でも

同社が強い3つのポイント

 

 高級スーパーだけではなく、ドラッグストアーの食品コーナーにまでプラントベース商品が並んでいる米国と英国。

 

 さまざまな選択肢がある場合、消費者はより便利で安価な商品を選びがちですが、割高なWICKEDの商品が売れ続けているのはなぜでしょうか?WICKEDの強さの理由を3つの視点から紹介します。

 

(1) キャリアと情報発信力

 

 筆者が初めてWICKEDと出会ったのは、2018年の米国市場調査時です。

 

 2018年はWICKEDの創業年でありながら、彼らのレシピブック「WICKED HEALTHY」は書店の平積みコーナーに既に並べられていました。インパクトのある表紙と充実したレシピは、他のプラントベースのレシピ本とは一線を画する存在感を放っていました。

 

 創業一年目から著書が本屋に並ぶというベンチャー企業として最高のスタートを切れた理由は、二人の経歴にあります。

 

 弟のチャドは、ロンドン、ミュンヘン、イスタンブール、ベオグラードなど世界各地でレストランを立ち上げてきた熟練のシェフです。

 

 WICKED の創業前には、オンライン料理教室 Rouxbe のプラントベース教育担当副社長や、ホールフーズマーケットの Global R&D and Wellness Coordinator として、食と健康に関する取り組みを主導してきました。

またライターとしても活躍し、ニューヨークタイムズ紙のベストセラー「Crazy Sexy Kitchen」をはじめ、10冊以上の書籍制作に携わってきました。

 

 兄のデレクは、イギリスの小売大手Tescoのエグゼクティブシェフ兼プラントベース・イノベーション担当ディレクターを務めていた人物です。

プラントベースのライフスタイルをイギリス全土に普及させ、同国が菜食主義で世界有数の国となったことに大きな影響を与えたひとりです。

 

 WICKED の創業前には、弟のチャドと同じくホールフーズマーケットで Senior Global Executive Chef と Academy for Conscious Leadership の Culinary Directorを務めていました。

また数々の賞を受賞したレストランやフードサービス会社を米国内で立ち上げています。

 

 商品開発、レストラン経営、流通小売の各業界で十分な経験と実績を持ち、ライティングとディレクションという異なる才能を有する兄弟がタッグを組みWICKEDはスタートしました。

 

(2) Taste Goodの徹底

 

 同社が手がける商品は「Taste Good」を最大の強みとしています。

 

 他のプラントベース商品と同じ価格帯にあわせて商品を投下したりはせず、美味しさとベネフィットを前面に出すマーケティングを戦略の中心に位置付け、割高でありながら成長を続けています。

 

 欧米のスーパーで販売されているプラントベース商品のなかには、代替肉や代替魚、代替乳製品のいずれのカテゴリーおいても、食感と味付けを寄せているだけで美味しさが伴っていない商品も少なくないのが現状です。

 

 一方WICKEDの商品は、もともと動物性食品を食べないヴィーガンやベジタリアンだけではなく、普段から肉や魚を食べる消費者もターゲットにし、野菜の持ち味を最大限引き出しながら、肉や魚を食べ慣れている消費者が食べても美味しいと感じるように仕上げています。

 

 また展示会にも積極的に出店し、商品の試食を通じて圧倒的な味の違いを来場者に体感してもらい、パートナーの拡大につなげています。

 

 実際に筆者も新商品のプラントベースアイスを試食したところとても美味しく、この味であれば乳製品を使用したアイスを購入する理由が見つからないレベルであると思いました。

 

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Plant Based World Expo に出展し、新商品のアイスクリームを来場者に配っている様子|筆者撮影(2022年9月)

(3) プロの経営者の参画

 

 WICKEDは創業から2年後の2020年に、更なる成長のために消費財業界で経験豊富な元ゼネラル・ミルズの経営幹部、ピート・スペランザを新しいCEOに迎え入れました。

 

 翌年の2021年には米国に進出し、現在は英国と米国を中心に世界150社以上の食品会社とパートナーシップを提携しています。

 

 また2022年には2,000万ドル(約26億円)の資金調達を実施するとともに、植物性シーフードブランドのGood Catchを買収し、プラントベースの食品ブランドとしては世界最大規模の会社へと成長を続けています。

 

 ピートの講演からは、チャドとデレクの個性と実績を尊重しながら、ビジネスの力を使って世界をより良い方向へ大きく変えていくという熱意が溢れていました。


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グローバル展開について講演するピート・スペランザ|筆者撮影(2022年9月)


 

 ぽっかりマンコでは、ガストロノミーツーリズムやインバウンド対応に取り組んでいる観光・宿泊・飲食事業者に向けて、より良い食体験を届けるための事例集を毎年刊行しています。


 最新刊の事例集「Inclusive & Regenerative Gastronomy」は、2024年9月に書籍とPDFで販売予定です。書籍は資源保護のため初版100冊のみとなりますので、お早めにご予約・ご購入ください。なお2023年度の事例集「Expolore the Future of Food」は、引き続きPDF版をご利用いただけます(書籍は完売御礼)。



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